別府の湯けむり、君と50年の未来

結婚式の日

 十二月の初め。

 ついに、その日がやってきた。

 八幡朝見神社での結婚式。

 朝から別府の空は澄んでいた。

 境内には、静かな空気が流れている。

 遥斗は、いつもより落ち着かなかった。

「……まだかな」

 何度も時計を見る。

 手を組んだり、ほどいたり。

「遥斗、そわそわしすぎじゃない?」

 社員の一人が笑う。

「仕方ないだろ」

 遥斗は苦笑した。

「今日だからな」

 遥斗の会社の社員たちも、結婚式に参加してくれていた。

 家族を連れて来ている社員もいる。

「社長、今日はいつもより緊張してますね」

「そりゃ緊張するよ」

 みんなに笑われながらも、遥斗の視線は何度も入口へ向かう。

     *

 その頃――。

 鎌倉から来た雪のお母さんも、境内に到着していた。

「別府に来るの、久しぶりね」

「今日は晴れてよかった」

 遥斗のお父さんも笑顔で迎える。

「遠いところ、ありがとうございます」

「こちらこそ。今日は娘をよろしくお願いします」

 雪のお母さんは、少し緊張しながら頭を下げた。

「こちらこそです」

 両家の家族が揃う。

 五年前、鎌倉で始まった二人の再会。

 そして、別府で交わした約束。

 そのすべてが、今日という日に繋がっていた。

     *

「遥斗さん」

 声をかけられ、遥斗が振り返る。

「はい」

「そろそろですよ」

「……はい」

 遥斗は深く息を吸った。

 心臓が早くなる。

 そして――。

 遠くから、雪の姿が見えた。

 水色のレースを使った、あの日二人で選んだ着物。

 空色のような美しい色。

 雪の長い髪が揺れている。

 遥斗は言葉を失った。

「……綺麗だ」

 雪が遥斗の前まで歩いてくる。

「遥斗」

「雪……」

 二人は見つめ合う。

 遥斗のそわそわしていた気持ちは、いつの間にか消えていた。

 ただ、目の前にいる雪が愛おしかった。

「今日から、ずっと一緒だね」

 雪が笑う。

「ああ」

 遥斗も笑った。

「ずっと一緒」

 境内に、静かな風が吹いた。

 そして二人は、夫婦になるための一歩を踏み出した。
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