別府の湯けむり、君と50年の未来

仲直りのクッキー

 翌日。

 遥斗が会社へ出勤すると、社員たちはいつも通り仕事をしていた。

 けれど――。

「社長、なんか元気ないですね」

 佐々木が声をかける。

「……別に」

「もしかして、雪さんに怒られたの、まだ気にしてます?」

「……」

 遥斗は黙った。

「やっぱり」

 佐々木は思わず笑った。

「社長、拗ねてるんですか?」

「拗ねてない」

「いや、拗ねてますよ」

 社員たちもクスクス笑っている。

「雪さん、初めて社長を怒ったって言ってましたよ」

「……だって心配だったんだ」

 遥斗は小さく呟いた。

 そんな遥斗の様子を見て、佐々木は思った。

 ――本当に雪さんのことが好きなんだな。

     *

 その日の夕方。

 雪は会社から帰ってきた遥斗を玄関で迎えた。

「おかえり」

「ただいま」

 いつもの遥斗に戻っている。

 けれど雪は、少し気になっていた。

「ねえ、遥斗」

「ん?」

「昨日のこと、まだ気にしてる?」

「……ちょっとだけ」

 雪は思わず笑ってしまった。

「佐々木さんから聞いたよ」

「何を?」

「遥斗が会社で拗ねてたって」

「……佐々木め」

 遥斗が少しむくれる。

 雪は笑いながら、キッチンへ向かった。

「じゃあ、これ」

「?」

 テーブルの上に、小さなお皿を置く。

「クッキー?」

「遥斗の好きなクッキー、作ったよ」

 遥斗の顔が一気に明るくなった。

「俺の好きなやつ?」

「うん」

「ありがとう!」

 一枚手に取って、ぱくっと食べる。

「美味しい!」

「機嫌直った?」

「うん!」

 遥斗は嬉しそうに笑った。

「雪、大好き」

「もう……単純なんだから」

「だって雪が作ってくれたんだもん」

 雪も笑った。

「昨日は怒ってごめんね」

「俺も心配しすぎてごめん」

「お互い様だね」

 二人は顔を見合わせて笑う。

 そして遥斗は、もう一枚クッキーを手に取った。

「これ、もう一枚食べていい?」

「もちろん」

 家の中に、二人の笑い声が響いた。

 怒って、拗ねて、そしてクッキーで仲直り。

 そんな小さな出来事さえも――。

 二人にとっては、大切な日常だった。
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