別府の湯けむり、君と50年の未来

5年越しの約束

 高校を卒業して、五年が過ぎた。

 遥斗は地元・別府で働いていた。

 毎日忙しい。

 それでも、仕事が終われば別府の街を歩く。

 湯煙が立ち上る街。

 幼い頃から見てきた景色。

 遥斗は、この大好きな地元のために頑張っていた。

 けれど――。

 心の片隅には、ずっと消えないものがあった。

 雪との約束。

 あの日、大分駅で交わした言葉。

 「高校を卒業したら、今度は俺が鎌倉に雪を迎えに行く」

 あれから五年。

 遥斗は、約束を忘れたことなど一度もなかった。

     *

 ある休日。

 遥斗は、意を決して電話をかけた。

「もしもし。雪の叔父さんですか?」

『おう、遥斗くんか。久しぶりやな』

「お久しぶりです」

 少し緊張しながら、遥斗は尋ねた。

「雪の住所……教えてもらえませんか」

 電話の向こうで、少し沈黙があった。

『雪に会いに行くんか?』

「はい」

『そうか……』

 叔父は、静かに笑った。

『鎌倉駅の近くに住んじょるよ』

 住所を聞いた遥斗は、何度もメモを確認した。

「ありがとうございます」

『遥斗くん』

「はい?」

『約束、覚えちょったんやな』

「もちろんです」

 その言葉に、叔父は嬉しそうに笑った。

『気をつけて行ってこいよ』

「はい」

 電話を切った遥斗は、しばらく住所を見つめた。

 鎌倉駅の近く。

 雪が今、暮らしている場所。

「……やっとだ」

 五年。

 長かった。

 でも、ようやく約束を果たせる。

     *

 その夜。

「父さん」

「ん?」

「俺、鎌倉に行ってくる」

 父親が顔を上げた。

「雪ちゃんに会いに行くのか?」

「うん」

「そうか」

 父親は少し笑った。

「じゃあ、飛行機の予約をしておこう」

「ありがとう」

 父親はスマートフォンを操作しながら、航空券を予約してくれた。

「それから、鎌倉までの電車も予約しておくぞ」

「電車も?」

「飛行機で着いてから乗り換えがあるからな。ちゃんと確認しておけよ」

「分かった」

「乗り換え、間違えるなよ」

「大丈夫だって」

 二人で笑う。

 けれど、遥斗の胸は高鳴っていた。

 五年ぶりに会う雪。

 どんな顔をしているだろう。

 自分のことを覚えているだろうか。

 そして――。

 あの日の約束を、雪も覚えているだろうか。

 予約した航空券を見つめながら、遥斗は小さく呟いた。

「約束……果たすけん」

 五年前、大分駅で別れた少女。

 ずっと心に残っていた、大切な人。

 今度は自分から会いに行く。

 急がなくてもいい。

 五年待てたのだから、もう少しくらい気長に待てる。

 でも――

 約束だけは、絶対に果たす。

 遥斗は、鎌倉行きの航空券を大切に握りしめた。
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