別府の湯けむり、君と50年の未来

5年ぶりの「雪」

 飛行機は、東京へ到着した。

 遥斗は荷物を持ち、父親が調べてくれた通りに電車を乗り換えた。

「次は……これで合ってるな」

 何度もスマートフォンの画面を確認する。

 乗り換えを終え、ようやく鎌倉へ向かう電車に乗る。

 窓の外の景色が少しずつ変わっていく。

 別府とは違う街並み。

 けれど、胸の奥にある気持ちは変わらなかった。

 ――雪に会う。

 五年ぶりに。

 やがて、鎌倉駅に到着する。

 遥斗はホームへ降りた。

 そして、ふと顔を上げた。

「……」

 ベンチに、一人の女性が座っていた。

 どこか見覚えのある姿。

 白い肌。

 すっと伸びた横顔。

 少し触れれば消えてしまいそうな、透明感のある瞳。

 美しい長い髪は、ハーフアップにまとめられている。

 遥斗の心臓が、大きく跳ねた。

 ――まさか。

 五年前の記憶と重なる。

 別府で笑っていた少女。

 大分弁で話していた雪。

 遥斗は、ゆっくりとその人に近づいた。

「……雪?」

 女性が顔を上げる。

「……?」

 少し不思議そうな顔をして、遥斗を見る。

「誰ですか?」

 その一言に、遥斗の胸が止まりそうになった。

 ――違うのか?

 そう思った瞬間。

 女性の瞳が大きく見開かれた。

「……え?」

 そして――

「遥斗!?」

 立ち上がった。

「えっ……本当に遥斗!?」

「雪……」

「遥斗!」

 雪は、目に涙を浮かべながら笑った。

「会いたかった……!」

 遥斗は、言葉が出なかった。

 五年間。

 何度も想像した再会。

 それが今、目の前にある。

「俺も……会いたかった」

 雪は涙を拭いながら笑った。

「約束……覚えててくれたんやね」

「ああ」

 遥斗は頷いた。

「忘れるわけないだろ」

 駅のホームを、二人の間を風が通り抜ける。

 五年という時間が、一瞬だけ消えたようだった。

 雪は笑顔のまま、遥斗を見つめる。

「……おかえり、遥斗」

 遥斗も笑った。

「ただいま、雪」

 あの日、別府で交わした約束。

 五年越しに――

 二人は、もう一度出会った。
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