シークレット―世界は守れますが、恋の仕方はわかりません―
 昼休み。

 直充は。

 中庭のベンチに座っていた。

 午前の講義は終わった。

 次までは。

 まだ少し時間がある。

 鞄を開く。

 昼食を取り出そうとして。

 木箱が。

 目に入った。

「…………」

 事務室へ持っていく。

 そのために。

 朝。

 鞄へ入れた。

 それなのに。

 直充の手は。

 昼食ではなく。

 木箱へ伸びた。

「…………」

 昨日から。

 どうにも気になっている。

 時計なのに。

 針が動かない。

 それなのに。

 音はする。

 ただ。

 それだけのことが。

 妙に引っかかっていた。

 直充は木箱を取り出した。

 蓋を開く。

 中には。

 昨日と同じ。

 金色の懐中時計。

 手に取る。

 蓋の縁に爪をかける。

 ぱちん。

 蓋が開いた。

 耳へ近づける。

 かち。

 かち。

 かち。

 やはり。

 音はしている。

 けれど。

 文字盤の針は。

 動いていない。

「…………」

 直充は。

 自分の腕時計を見る。

 それから。

 懐中時計へ視線を戻した。

「時間合わせたら動くのか?」

 単純な疑問だった。

 中から音がしているなら。

 完全に壊れているわけではないのかもしれない。

 時刻がずれているだけなら。

 合わせれば。

 普通に動く可能性もある。

 直充は。

 リューズへ指をかけた。

 腕時計の時刻を見ながら。

 ゆっくり回す。

「…………」

 針は。

 動かない。

 もう少し。

 回してみる。

 それでも。

 反応はない。

「やっぱり壊れてるのか」

 直充は。

 リューズから指を離した。

 掌の上に。

 時計を乗せる。

 これ以上。

 触っても仕方がない。

 そう思った。

 そのとき。

 少し遅れて。

 止まっていたはずの針が。

 すっ。

 動いた。

「……え?」

 直充の視線が。

 文字盤へ落ちる。

 今。

 動いた。

 確かに。

 そう見えた。

 けれど。

 針は。

 もう止まっている。

「何だ……?」

 直充が。

 時計へ顔を近づける。

 その瞬間。

 ふっ、と。

 身体が揺れたような感覚がした。

「……っ」

 ほんの一瞬。

 視界が。

 ぼやける。

 直充は。

 瞬きをした。

 疲れているのか。

 そう思った。

 けれど。

 次に目へ入ったものは。

 さっきまでの中庭ではなかった。
< 24 / 97 >

この作品をシェア

pagetop