S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる

 急ぎの用件じゃないのなら帰宅後に家を訪ねてくればいいと思うのだが、それでは紗夜が仕事終わりにそのままおでかけに行くことを阻止できない。

 紗夜に連絡しても無視されたり、故意じゃなかったとしても気づいてもらえなければ、やはり止められない。

 だから和季は『上司を経由する』という絶対に断れない方法で、紗夜にコンタクトを取ってきたのだ。

 ――正直、職権乱用にもほどがあると思うけれど。

「あの、でも別に、デートってわけじゃ……!」

 昼休みの会話を聞いていたのならそう思われても仕方がないが、『デート』というのは言葉のあやだ。

 実際はそれほど甘やかな雰囲気のおでかけではないし、和季が想像しているような――紗夜と和季が過去にしてきたようなデートにもならないはずだ。

 もちろん、陽太が紗夜に対して特別な感情を抱いているようにも思えない。

 ただ陽太は、せっかく社内恋愛が解禁になってもその片鱗すら見えない紗夜を心配して、あるいは面白がって、声をかけてきただけだと予想している。

 しかし和季は紗夜の人間関係を正確に把握しているわけではない。ゆえに盛大な勘違いをしているのだろう。

「……紗夜」

 胸を押したことで一度は離れたが、その空いた距離を縮めるように、紗夜の身体をぎゅっと抱きしめてくる。

 再び名前を呼ばれると、耳朶を掠める吐息の湿度に肩がビクッと飛び跳ねる。

< 101 / 304 >

この作品をシェア

pagetop