S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる

5センチ先で耐え忍ぶ


 紗夜をがばっと抱き上げた和季が、部屋の奥に向かってスタスタと歩き出す。

 広い室内には和季が仕事をするためのデスクと、背もたれが高く座り心地が良さそうなワークチェア、壁際には書籍や資料を収める棚があるが、部屋の中央には応接テーブルとそれを挟むよう向かい合わせになった長ソファが二つあるだけで、他にはなにもない。

 動線と清潔感のみを追求したような広い空間をもったいないと感じてしまう紗夜だが、今はそれどころではない。

「ちょ、ちょっと……!」

 和季が紗夜を抱きかかえたまま、手前のソファに腰を下ろす。いわゆるお姫さま抱っこの状態で和季と目が合ったので抗議の声を出しかけたが、和季は紗夜の困惑をさらりと受け流した。

「通話もメールも、このままでもできるだろ」
「そ、そんな……!」

 和季が、リロリロリロリン、リロリロリロリン、と可愛らしい音を鳴らし続ける紗夜のスマートフォンを一瞥する。

 その視線に小さな苛立ちが込められている気がしてたじろぐ紗夜だが、それでもやはり和季の膝の上で陽太と話はできない。

 陽太には申し訳ないが、ここは彼が出る前に切らせてもらおう、と判断して画面を見つめたが、一瞬だけ遅かった。

『はい』
「!」

 呼び出し音がぷつりと途切れた直後、スピーカーの向こうから陽太の声が聞こえてきた。

 出る前ならまだ間に合うが、出てしまったあとでこちらから切るのはさすがに躊躇われる。

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