S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる

 バスルームは廊下を挟んでキッチンと反対側にあるので、浴室内でよろめいて壁にぶつかったりなにかを落としたとしても、こんなに近くから大きな音はしないはずなのだ。

 そう思うと急に不安を感じ始める。

(ま、まさかさっきの音……倒れてる!?)

 しっかりと身体を鍛えているらしい和季が、日常生活でそう簡単によろめいたりなにかに躓くとは思えない。

 だが急な体調不良は誰にでも起こりうる。突然意識を失ったことが原因でその場に倒れ込んでしまう可能性は、にんげん誰しもゼロではないのだ。

(で、電話にも出れないんじゃ……!?)

 紗夜の中に生まれた『嫌な予感』が爆発的に増大すると、急に強い不安が押し寄せてくる。

 頭の中では絶対にありえない、と考えている。けれど心のどこかで、もし和季になにかがあったら、その変化をこんなに近くにいるのにあっさり見逃してしまったら、とも感じてしまい、無意識にぶるりと身震いする。

 なんとも表現しがたい奇妙な悪寒が全身をさぁっと駆け抜ける。

 気がつくと紗夜はキッチンを飛び出し、玄関に向かって走り出していた。

 パジャマとルームスリッパのまま共用廊下へ飛び出すと、隣の部屋の扉に駆け寄って、壁に取り付けられたドアチャイムを鳴らしてみる。

 だが数秒待ってみても、やはり中からは応答がない。

「明里常務、深田です。起きてらっしゃいますか?」

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