S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる
中でドアフォンを操作しないとこちらの声が届かないことはわかっているが、それでも自然と語りかけてしまう。
最初は自分の方が近所迷惑にならないように、と小さめの声で訊ねていた。
だが和季の反応がないことにじわじわ焦ってきたせいか、呼びかける声が次第に大きくなっていく。
「あの……! 常務、大丈夫ですか……!?」
こんなところで役職を呼ぶのもどうかと思ったが、下の名前で呼ぶことも躊躇して、結局はいつも通りに呼びかける。
しかしそれにも反応がなく、いよいよ盛大に焦り始める紗夜だったが、そこでふと、先ほど確認したメッセージの中に『鍵開けておくから』という文言があったことを思い出す。
和季が住んでいたような高級マンションであれば、各部屋の玄関も当然のようにオートロックだ。
しかし築二十年以上が経過しているこのマンションに、そんな堅牢なセキュリティシステムなど導入されていない。
ならば、と思いドアノブをグッと押し下げてみると。
(! やっぱり! 鍵、かかってない……!)
和季からのメッセージにあった通り、玄関には鍵がかかっていなかった。
立地の割に家賃が安いのは魅力的だが、セキュリティが若干甘いのはいただけない。だがこういう緊急事態のときは、むしろありがたいかもしれない。
「明里常務? 大丈夫ですか? 大きい音がしましたけど!」
玄関の扉を押し開けると、しん、と静まり返った部屋の奥に向かって声をかける。