S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる
距離7センチで見つめ合う
あまりの驚きから反応もできずにいると、横たわったままの和季がふっと表情をゆるめた。
「自分から来たってことは〝そのつもり〟ってことでいいよな?」
「……え」
最初は意味がわからず呆然とするばかりの紗夜だったが、笑みを浮かべた和季にそう訊ねられたことで、ようやく状況を理解する。
「だ、騙したんですか……!?」
紗夜が驚愕の声を上げると同時に、和季が床からのそりと起き上がる。
その姿からは体調不良の気配など微塵も感じられない。それどころか彼の笑顔はいつも以上に快活で、声も楽しげに弾んでいるように感じられる。
「いや? 疲れたからちょっと目瞑って、リラックスしてただけ」
「キッチンの床で!? そんなわけないじゃないですか!」
そんなはずがない。疲れて身体を休めるにしても、ベッドなりソファなり、横たわる場所なら他にいくらでもあるはずだ。ここでリラックスと言われて、そうなんですね、と素直に受け入れられるはずがない。
しかし冷静に考えてみたら、和季は『具合が悪い』とも『怪我をして動けない』とも言っていない。もちろん紗夜に助けを求めるような連絡が来たわけでもない。
つまり『お風呂上がりに身体を伸ばした際にふらっとよろめいて壁にぶつかり、激突の反動で床に座り込んだらエアコンの冷気が当たって床が冷たくなっていると気づいたので、そのままそこに寝そべってクールダウンしていただけ』と言われたら、紗夜は納得するしかない。