S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる

 もちろんいくら連絡しても返信どころか既読すらつかなかったことも、紗夜には責める筋合いがない。

 和季から返信がなかったのはほんの数分間だが、紗夜は帰宅してから数時間、和季の連絡に気づかないフリをし続けていた。返信がなかったことを責められるのなら、紗夜の方がよほど重罪である。

 うぐ、と言葉を詰まらせる紗夜の目の前で胡坐(あぐら)をかいた和季が、心底つまらなさそうに息をつく。

「あれだけ必死に口説いたのに、結局来ないとは思わないだろ」

 和季の深いため息から、紗夜の想像以上に彼のアプローチが真剣であることを窺い知る。

 悔しそうに歪む表情からも、時間になったら紗夜がこの部屋にやってくると信じて疑っていなかったことを感じ取る。

「こうでもしなきゃ、俺は紗夜に触れることすらできない」

 ふいに和季の手が伸びてきて、今度は手首ではなく腰を強く掴まれる。

 さらに座ったままの状態でその手に力を込められ、和季の腕の中へ身体ごと引き寄せられる。

「紗夜、いい匂いする」
「っ……」

 突然の抱擁と耳の中へ直接注がれる囁きに、びく、と身を固くする。

 しかもただ抱きしめられただけではなく匂いまで確認されていたことを知り、一気に恥ずかしくなってしまう。

 一日あくせく働いたあとの汗の匂いじゃなかったのはいい。だが和季に『入浴を済ませて待っていた』と思われるのは心外だ。

< 126 / 304 >

この作品をシェア

pagetop