S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる

 どうしても真実を明かせない事情があったとしても、相手を傷つける嘘をつくぐらいなら『ごめん、言えないんだ』と上手に濁すという選択をする人だ。

 ならば先ほどの『婚約者がいるでしょう』に対する『婚約者なんていない』という答えは、嘘ではないということに――和季には本当に婚約者など存在しない、ということになる。

 フッと身体の力が抜ける。へなへなと脱力して、和季の胸にそっともたれかかってしまう。

「……そう、ですか」

 心にのしかかっていた重石が消え去って、苦しかった気持ちが解放されたような心地を味わう。

 和季が自らの口で『婚約者なんていない』と言い切ってくれたことに、言葉では言い表せないほどの安堵を覚えている。

 ――だが、疑問も残る。

(じゃあ、あれはどういう意味だったの……?)

 そう、和季は嘘をつく人ではない。だから紗夜は二年前も、再び口説かれるようになったここ最近も、和季本人に婚約者の件を聞けなかった。

 彼が真剣な質問には嘘をつかないことを――将来を誓った相手の存在を問い質したときに、誤魔化さずに『そうだ』と答える人だと知っていたからこそ、自分が『二番目』という事実を直接突きつけられるのが怖くて、和季に直接は聞けていなかったのだ。

 だが紗夜は二年前、その和季が自ら『彼女ではないが、結婚を考えている女性がいる』と口にしたのを聞いている。

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