S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる
「あ、あの……っ」
「……」
そして硬直する紗夜を目にした和季も、一瞬完全に止まってしまう。
互いに動けなくなったまま、しばしじっと見つめ合う。
先ほど和季は『婚約者なんていない』と言っていた。その主張は嘘ではないのだと思う。
だが紗夜はまだ情報の整理も、彼の想いを受け入れる心の準備もできていない。そもそも安易に受け入れていいのかどうかも分からないぐらい、自分の気持ちとしっかり向き合えていない。
ならば今は否定すべきか、完全否定はせずとも上手くはぐらかすべきか、難しいことは考えず和季への気持ちだけは素直に認めるべきかと、思考がぐるぐると回転する。
そんな紗夜の困惑を悟ったらしい。
――否、紗夜の秘めた本心を見抜いたのだろう。
和季が、ふ、と表情をゆるめる。
「無理して言わなくてもいいけどな」
「え……?」
「その表情見ればわかるから」
「!?」
和季の宣言に再度びくっと緊張する紗夜だが、対する和季はそれまでとは打って変わってご機嫌な笑顔を浮かべる。
紗夜はなにも言っていないのに、まるで紗夜の気持ちと自分の望む答えが一致していることを確信したかのように。
「和季さ……」
焦った紗夜は声を上げようとした。だが否定の台詞も肯定の台詞も声にならない。
紡ぎかけた名前ごと奪って味わうように唇を重ねた和季が、紗夜の腰を優しくゆっくりと撫で始める。
――こうなっては、紗夜にはもう和季を止めることはできなかった。