S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる

 その言い分はわかるが、しかしそれを受け入れることは『もう少しここにいてほしい』あるいは『今夜はここに泊まってほしい』との希望を受け入れることと同義だ。

「いえ、あの……和季さ……」
「すぐ戻ってくる。飲むものも持ってくるから、休んでていいぞ」
「いえ、そうじゃなくて……!」

 紗夜があわあわしているうちに下着とルームパンツ、Tシャツを身に着けた和季が、ベッドから立ち上がる。

 その素早さに追いつけない紗夜は、和季を説得するより自分が身支度を始めた方が早い、と考えてパジャマに手を伸ばした。が。

「これ預かってくから」
「え……?」

 そう言ってベッドルームを出ていく和季の指先には、紗夜が先ほどまで身に着けていた桃色のショーツが引っかかっている。

「!? ……ちょっ、それ私の!」

 まさかの公然下着泥棒に焦りの声が出る。下着を人質に取られたら、紗夜は和季の家はもちろん、ベッドルームから出ることすらできなくなってしまうのに。

「戻ってきたら、今度は上に乗ってもらうからな。今のうちにちゃんと休んでおけよ」
「!?」

 大慌てで和季を追いかけようとした紗夜に振り返った和季が、にこりと楽しげな笑みを浮かべる。

 その笑顔に、絶望を覚える。

 本当に、優しかった明里和季はどこへ行ってしまったのだろうか、と嘆きたくなるほどに。

< 143 / 304 >

この作品をシェア

pagetop