S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる
ふたりの距離 -two years ago-
今朝からずっと悶々とし続けてきた紗夜だが、時計の長針が最後の上昇を始めてからのこの三十分間は、特にそわそわと落ち着かない。
もちろん仕事にはきっちりと取り組んでいるつもりだ。しかし視線を上げて隣の和季とばちっと目が合うたびに、心臓が破裂しそうな心地を味わっている。
本日中にやらなければいけない確認作業を、あと五分もせずにやり終えてしまいそうなのが、また辛い。とはいえ今から別の作業に手をかける気にもなれない。
ではこれが終わったあとの二十分、どういう顔をしてここに座っていればいいのだろう。
「深田」
「!? は、はいぃ……っ」
密かにぐるぐる考え込んでいると、隣でワークチェアを引きながら立ち上がった和季に声をかけられる。
思わず裏返った声を出してしまうと、紗夜を見下ろした和季がくつくつと笑って、他の人には聞こえないほどの声量でぽつりと呟いた。
「顔に出すぎ」
「……っ」
秘めた緊張を見透かすような和季の一言に声を失う紗夜だが、反論の言葉は出てこない。感情が表に出すぎていることは、紗夜自身が一番自覚しているからだ。
しかし和季は紗夜の反応ばかりに構っていられないらしい。
「ちょっと上に行ってくる」
和季が視線だけを上げて頷く。
上。重役フロアのことだ。