S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる

ふたりの距離 -two years ago-


 今朝からずっと悶々とし続けてきた紗夜だが、時計の長針が最後の上昇を始めてからのこの三十分間は、特にそわそわと落ち着かない。

 もちろん仕事にはきっちりと取り組んでいるつもりだ。しかし視線を上げて隣の和季とばちっと目が合うたびに、心臓が破裂しそうな心地を味わっている。

 本日中にやらなければいけない確認作業を、あと五分もせずにやり終えてしまいそうなのが、また辛い。とはいえ今から別の作業に手をかける気にもなれない。

 ではこれが終わったあとの二十分、どういう顔をしてここに座っていればいいのだろう。

「深田」
「!? は、はいぃ……っ」

 密かにぐるぐる考え込んでいると、隣でワークチェアを引きながら立ち上がった和季に声をかけられる。

 思わず裏返った声を出してしまうと、紗夜を見下ろした和季がくつくつと笑って、他の人には聞こえないほどの声量でぽつりと呟いた。

「顔に出すぎ」
「……っ」

 秘めた緊張を見透かすような和季の一言に声を失う紗夜だが、反論の言葉は出てこない。感情が表に出すぎていることは、紗夜自身が一番自覚しているからだ。

 しかし和季は紗夜の反応ばかりに構っていられないらしい。

「ちょっと上に行ってくる」

 和季が視線だけを上げて頷く。

 上。重役フロアのことだ。

< 144 / 304 >

この作品をシェア

pagetop