S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる
おそらく直前で和季宛にかかってきた内線は、彼の父親であるルミリュクスの社長、あるいは叔父である専務からの呼び出しだったのだろう。
「時間過ぎるだろうから、定時になったら帰っていいぞ」
「わ、わかりました。お疲れさまです」
どうやら和季の用件は、あと二十分では終わらない見込みらしい。
紗夜の業務にはすでに指導係の和季の手を離れて単独で進められる案件も多いが、一応今年度中は常に和季に報告・連絡・相談をして、指示を仰ぐことになっている。
よっていつも通り彼が戻ってくるのを待つつもりだった紗夜だが、和季は先に帰っていいと仰せだ。
なんとなく気の置き場に戸惑っておろおろしてしまうと、ふ、と表情をゆるめた和季がそっと身を屈めて、紗夜の耳元に唇を寄せてきた。
「――後でな」
「っ……。は、い……」
和季の囁きに上擦った声で返答すると、顔を上げた彼がにこりと笑みを残して席を離れる。
課長である本郷に声をかけて財務課を出ていく和季の背中を見送った紗夜は、はあぁ……とため息をついて、デスクの上にへにゃりと突っ伏した。
(意識するなって方が、無理では……)
昨年末に和季から『付き合おう』と言われ、年末年始のほとんどの時間を彼とともに過ごした。
あれから一か月半が経過したが、仕事ではこれまで通りに振る舞いつつ、プライベートでの秘密の交際も順調に続けている。