S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる

 腰を掴まれているせいで、先ほどから腕や脚に懸命に力を入れているのに結局は逃げ出せていなかったが、それでも感情は悟らせまいと必死だった。

 しかし和季は、そんな紗夜の小さな努力も易々と飛び越えてくる。

「それなら、わかってるだろ?」
「……え?」

 和季の腕から逃れることに気を取られていると、腰に回ったその手にさらに力が込められ、同時にまた少し顔の距離を近づけられた。

 ちなみに、和季の言う全社員に対する通達案内文、通称『全社通達』を見たというのは嘘じゃない。

 確認してから数日が経過していたため細部を忘れていたというだけで、紗夜もそれなりの衝撃を受けた。なぜなら、その内容は――

「月曜から社内恋愛が解禁になる。あの無意味な悪習は、今月ですべて廃止だ」
「!」

 そう。今週月曜日、社内各所の掲示板と社内システムの通知欄を用いて発表されたのは、これまで長年にわたり禁じられてきた『社内恋愛』を解禁するという新ルール。

 今後は株式会社ルミリュクスに勤める社員同士の自由な恋愛や結婚を認める、という決定事項の周知だった。

 発表されたのが五月の最終月曜日で、新ルールの適用は一週間後の六月最初の月曜日から。つまり次に会社へ出勤したら、ルミリュクスでは社員同士の恋愛が許されるようになっている、ということだ。

 もちろん労働そのものと関係のない制約が減ること自体は、社員たちにとっては喜ばしいニュースである。

 しかし紗夜には今のところ関係がない……と思っていたのだが、そこで和季がまたも驚きの一言を放つ。

「これで俺たちも、堂々と付き合える」
「!?」

 がばっと顔を上げて、こちらを見下ろす和季の顔を見上げる。すると彼がにやりと楽しそうに口角をつり上げた。


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