S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる
一応、経営者側からではなく、社員側から規則を変えてほしい、と働きかけることも可能ではある。
だがその声を挙げる『労働組合』の役員メンバーは、数年以内に退職を控えているだろう年配の既婚者か、組合活動を押しつけられがちな入社数年以内の若い社員と、構成にかなりの偏りがある。
そこから『社内恋愛禁止の規則を変えたいと訴えましょう』という声は、なかなか挙がらないものと思われる。
前途多難な状況に肩を竦める和季だが、決して先が見えないわけではない。
周りは動かせなくても、自分が動くことはできるからだ。
「ま、俺の方が少し近づいたからよしとするか」
和季がぽつりと呟いた一言に、「え?」と首を傾げる。すると紗夜の顔を見つめた和季が、にやりと口の端を上げた。
「新年度から、人事部への異動が決まった」
「!」
和季の一言に、ぴくりと肩が跳ねる。
なるほど、先ほどの呼び出しはこの件だったのだろう。身内とはいえ、もうすぐ業務が終わる時間に呼び出して仕事を言いつけられるなんて……と思っていた紗夜だが、和季の進退に関わる内々話なら納得だ。
だが紗夜はその報告を、どう受け止めていいかわからない。
「なんだ、喜んでくれないのか?」
「あ……えと、おめでとうございます」
和季が少し困ったように首を傾げるので、慌てて祝いの言葉を述べる。
だがまたすぐに俯いてしまう。