S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる

「でも、和季さんと離れるの、さみしいです」

 そう、和季が異動するということは、春から紗夜と和季は別の部署で働くということ。

 入社してから約一年間、和季からすべてを教わってきた紗夜が、お手本にしてきた道しるべを失うということ。

 生まれたばかりの雛鳥が、親鳥を失うということだ。

 それに恋人になってまだ一か月半の和季と毎日会えなくなるのも、単純に寂しい。この一か月半プライベートの時間のほとんどを和季とともに過ごしているせいか、部署が変わればそのまますれ違うのでは、と感じてしまうのだ。

 紗夜の不安の感情に気づいたのか、和季が、ふっと微笑む。

「おいで、紗夜」

 チョコレートの小箱をテーブルの上に移動させた和季が、ソファの背もたれに身体を預けて自身の膝をぽんぽんと叩く。

 いつもは恥ずかしくて躊躇する紗夜だが、今日は素直に彼の求めに従って、その腕の中に飛び込んだ。

「前に『明里の人間が役職に就くためには、決められた課題をクリアする必要がある』って話したの、覚えてるよな?」
「……はい」

 紗夜を腕に抱いた和季の確認に、こくりと頷く。

 明里家の人々には、社員と同じ部署に籍を置いて会社の運営に必要な基礎知識や基本経験を培いつつ、現在の重役たちが示す目標や数値をクリアする『課題』が与えられるらしい。

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