S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる

 会社を動かす『現場』を知るため、営業部に。会社を生かす『お金の流れ』を知るため、経理部に。会社をかたち作る『社員』を知るため、人事部に。

 もちろん本当はすべての部署に籍を置いて、すべての業務を肌身で知っておいた方がいいことは、言うまでもない。

 だが時間は無限じゃない。とはいえ、明里家の御曹司というだけでなんの制約もなく人の上に立つと下からの不満も生じるし、本人がその重責で潰れてしまう可能性もある。

 そのため最低限の経験を通して、上に立つ者としての素質を有するかどうかを見定められる期間を設ける。

 つまり経理部から人事部への異動は、ただの『定期異動』ではない。たとえ平社員から平社員であっても、和季にとっては出世の下準備。異動が正式決定することは喜ばしいことなのだ。

 それは紗夜もわかっている。以前教えてもらったから、わかってはいたのだけれど――

「営業では目標成績に到達するまで、三年かかった。けど経理の課題は二年で終えられた。紗夜のおかげだ」
「……え?」

 俯く紗夜を和季が急に褒め称える。

 だから思わず視線を上げると、和季が紗夜を抱きしめたまま優しく微笑んだ。

「今だから言うが、実は後輩指導も課題の一つだったんだ。上が出した課題を紗夜がクリアすることで、俺の指導の正確性と適正が認められる形だな」
「!? そうだったんですか……!?」

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