S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる

「ありがとうございます」
「……紗夜はえらいな」

 紗夜は元指導係で先輩である和季に、素直にお礼を言ったつもりだったのに。

 ふいにが腕を伸ばしてきた和季が、紗夜の後頭部を――首の後ろをゆるりと撫でる。

「……っ」

 和季の指先が襟足に触れると、数日前の甘やかな指遣いと優しい温度を思い出して、また顔と身体に熱を持つ。

 今朝、和季がなんの前触れもなくやってきたときは、またなにかされるのではと思わず身構えてしまった。最初は家の中に入れることもためらった。

 だが彼はデートに誘ってきたり、他愛のない雑談をするだけ。先ほど一度触れられたときも、愛犬と戯れるかのように乱雑に頭を撫でられただけ。だから完全に油断していた。

 けれどまさか、ここで急に甘さを含んだ声で名前を呼ばれて、みだらな指使いで首の後ろを撫でられるとは。

「紗夜……」

 和季の指先の動きが急に緩慢になって、首の後ろから背中へ降りてくる。

 紗夜をじっと見つめながら、布越しにゆるく肌を撫でる優しい動きに、思わず変な声が出そうになってしまう。

「か……ずき、さ……っ」
「っ……」

 びっくりして思わず名前を呼んでしまうと、和季が息を詰めて指の動きをぴたりと止める。

 ――そのまま、じっと見つめ合う。

「ちょ……っと、待っててくれ。もう一つ準備しておかなきゃいけないもの、思い出した」
「!? いっ、いいです! それは必要ないですっ! お願いですから行かないで……ここにいてくださいっ」
「……いや、それもズルいだろ……」

 紗夜の麗しの休日が、和季のせいで熱に負けたアイスクリームのように溶けていく。

 休日の攻防はきっとまだ始まったばかりだ。

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