S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる
業務上の些細なやりとりのとき、廊下で一瞬すれ違ったとき、ほんの少し目が合ったとき。
なにか言いたげな表情を向けられたり、熱の籠った視線を向けられたりと、ハラスメントだと抗議するほどではないが、反応に困ってしまうような感情や気配を醸し出されることがあった。
それに必死に気づかないふりをしてきた紗夜だったが、やはり和季は紗夜の態度に不満を抱いていたらしい。
背中を支えてくれていた手がするりと離れたかと思うと、しなやかでありながら男性らしく骨張った指先で、顔の輪郭に触れられる。
「ずっと、触れたかった」
「! 和季さ……」
和季の指に力が入り、顎の先をくい、と持ち上げられる。
視線を合わせるよう強引に顔の位置を変えられているのに、怒りよりも先に顔の火照りを感じてしまう。きっと、和季に心を乱されているせいだ。
「この二年、紗夜が誰かと付き合い始めたらどうすればいい、他の男のものになったらどう奪い返せばいい、って……そればかり考えてた」
「!?」
和季の黒い瞳が不安げに揺れる。紗夜の感情と現状を探り出そうとする視線に、心臓がばくばくと大きな音を立てて転がり始める。
「恋人、できてないよな……?」
「い……いません……」
「そうか、よかった」
「……」