S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる
紗夜の返答を耳にした和季が安堵のため息を零す。
だが紗夜は彼と同じ気持ちにはなれない。
よかった、なんて思えない。
……なぜなら。
(和季さんには、婚約者がいるでしょう)
たしかに紗夜は『社則違反に罪悪感を覚える』という理由で和季に別れを切り出した。もちろん、その気持ちも嘘ではない。
だがそれ以上に大きな理由となったのは、紗夜と和季の交際には先がないこと――彼には紗夜とは別に、将来を考えている『婚約者』がいると知ったことにあった。
(私は、和季さんの特別にはなれない)
一般家庭に生まれ育った紗夜は、優れた頭脳や運動能力、秀でた一芸や麗しい外見を持ち合わせているわけではない。二十五年間ごくごくありふれた人生を歩んできた、なんの面白みもない普通の会社員だ。
だがアカリグループを束ねる明里家に生まれた和季は、それらすべてに加えて社会的地位と財産と人柄まで兼ね備えた、完璧な御曹司である。
そしてそんな彼には、実は将来を真剣に考えている相手がいる。未来の伴侶に相応しい『特別な存在』がいるのだ。
二年前のある日、紗夜はその現実をまざまざと思い知らされた。自分は一時の恋愛を楽しむだけの相手だと気づいてしまった。だから紗夜は深入りする前に、和季から離れる道を選んだのだ。