S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる
和季が口にした『婚約者なんていない』という言葉を疑っているわけじゃない。
けれど、それなら〝あれ〟は――『彼女ではないが、結婚を考えている女性がいる』という和季の発言は、一体どういう意味だったのかと思ってしまう。
(もしかして、時系列が違う? まさか私と和季さんの交際が家族や相手に知られて、婚約が破談になった……?)
そう考えると辻褄が合う。実はこの二年の間に決まっていた婚約が破談になっていたとしたら、現在「婚約者なんていない」、という発言と、二年前に聞いた「本命の女性がいる」という発言は矛盾しない。
だとしたら紗夜は、大企業の御曹司の婚約を破談にした、とんでもない悪女なのでは――?
(って、だめだめ! 今は作業に集中しなきゃ!)
物思いに耽るあまり、また目の前の作業が疎かになっていることを自覚する。
紗夜は現在、社員に給与を支給するために必要な、計算と確認作業のまっ只中だ。疲労が溜まってお腹が空く残業中とはいえ、ぼんやりしていいはずがない。
経理部の業務はどれも会社の大切なお金を扱う仕事のため、ミスは絶対に許されない。もちろん係長、場合によっては課長にも直接チェックをしてもらって最終的にミスがないよう注意を払っているが、それ以前に在籍する社員一人一人が責任感を持って数字の羅列と向き合う必要がある。