S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる

 紗夜の名前を呼んで、優しく撫でて、好きだと言ってくれる和季の笑顔を思い出すと、自然と緊張してしまう。

 ここにいない和季に名前を呼ばれた気がして一人でドキドキしていると、そんな和季の姿を打ち消すように、陽太が紗夜の顔を覗き込んできた。

「もしいないならさ、俺と付き合ってみない?」
「……。え……?」

 食事に出かけよう、という軽い誘いではない――交際をしてみないかという紗夜の予想を大きく上回る提案に、言葉を失って呆然と陽太の顔を見つめる。この人はなにを言い出すのだろう、と思うと、「あの……?」と不安げな声まで出てしまう。

 紗夜の困惑の表情を確認した陽太が、にこりと笑顔を向けてくる。

 紗夜に期待しているとも、紗夜の反応を楽しんでいるとも、紗夜の返答を心待ちにしているともつかない表情に、どう答えるのが正解なのだろうかと考え込む。

 けれどその質問に対する紗夜の答えは一つだった。

(付き合う、はちがう……)

 紗夜は、陽太と交際したい、とは思えない。

 もちろん同期で入社した仲間なのでまったく知らない人ではないし、話をしていて楽しい男性であるとは思う。

 だが陽太には、長い時間を共有して得た信頼関係がほとんどない。

 誘い文句自体はほぼ一緒だが、二年前、紗夜に『俺と付き合わないか?』と言ってくれた和季には、約一年に渡って築いてきた尊敬と信頼があった。

 仕事を教わる中で和季の良いところをたくさん知っていたからこそ交際の提案をすんなりと受け入れられたし、和季が紗夜に良い感情を抱いてくれていることも感じ取れていたのだ。

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