S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる
だが陽太とは入社時期が一緒というだけで、普段はほとんど接点がない。先日、オープンラウンジで声を掛けられたときも久々の会話で、それまでは個人的な連絡先すら知らないほど遠い関係だったのだ。
そんな陽太が紗夜を好いているようには思えない。もちろん、実は紗夜に一目惚れしていた、ということもないだろう。
――なんて陽太の言動の理由を勝手に推理して分析してみるが、本当はそんな理屈なんて関係がないのだ。なぜなら。
(やっぱり、私は……和季さんが好き……)
好きな人、と言われて紗夜の心の中に浮かぶのは、いつも和季の笑顔だ。
和季が『好きだ』と言ってくれる声が、『えらいな』と頭を撫でてくれる指の温度が、『可愛い』と褒めてくれる笑顔が、いつも紗夜の心をあたたかくする。
もちろん、和季の笑顔が永遠に自分だけに向けられるとは思っていない。アカリグループの御曹司として生まれ、経営者の一人として人々の上に立つ彼の隣に、自分が並び立てるとは思っていない。
だから未来のことはわからない。でも『今』は、和季の傍にいたい。彼の笑顔を見ていたい。
和季が好き――その気持ちを、今はっきりと自覚した。
だから紗夜は、陽太とも、もちろん他の誰とも付き合うことは考えられない。
「あのね、瀬戸くん」
「返事、今すぐじゃなくていいから。土曜に会ったときでも」
「えっ」