S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる
(最初から、わかっていたはずなのに)
明里和季という男性は、本当は触れてはいけない人だった。絶対に届くはずのない相手だった。
なのに『可愛い』『好きだ』『付き合おう』と言われて、軽率にその手を取ってしまった。
いつか離れなければいけない相手なのだと想像することもできず、いつの間にか本気で彼を好きになってしまったのだ。
もちろん、最初から和季に婚約者がいると知っていたら、彼の誘いはきっぱりと断っていただろう。
――いや、それは今この瞬間にも言えることだ。
最初は和季の求めるものや呼び出しの意図がわからず、彼の粘り強さに根負けして、結局ここまでやってきてしまった。
だが和季の用件が『紗夜とよりを戻すこと』だと言うのなら、話はここで終了だ。紗夜はもうこれ以上、和季と個人的に関わるつもりはないのだから。
「……ます」
「ん?」
「恋人はいませんが、好きな人がいます」
和季の顔を見るのをためらい、俯いたままぼそぼそと告げる。
そんな紗夜の返答を聞いた瞬間、和季の指先がピクリと反応して、やがてその動きが時間ごと停止した。
「……は?」
数秒ののち、和季が低く不機嫌な声を発する。