S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる

 おそらくこの二人は和季が人事部に在籍していた頃の同僚で、ゆえに他の社員よりは和季と親しく接してきた経緯があるのだと思うが、それでも二人は「そっかぁ」「それはそうよね」で済ませられる感情なのだ。

 だが紗夜は違う。和季に婚約者がいること、その婚約者が仕事中の和季を訪ねてきたことを聞いて、今にも脱力して膝から崩れ落ちそうなほどの衝撃を受けているのは、きっと紗夜だけだ。

 なおも明里常務の女性の好みはどう、現れた女性の外見的特徴はこう、と話し続ける二人から少し離れた場所で、ただ呆然と立ち尽くす。

 するとふと経理部のオフィスから出てきた増井が、エレベーターの前で雑談に花を咲かせている女性二人にそっと声を掛けた。

「君たち、お話をするなら奥の方がいいんじゃないかい? エレベーターの前は、降りてきた人とぶつかっちゃうよ」
「はっ、たしかに!」
「そうですね、ありがとうございます、増井課長」

 叱責するような口調や言葉選びではなく、極力角が立たない言い回しで増井が移動を促すと、女性二人がハッと我に返る。他部署の上司でありながら優しく注意してくれる増井に元気な返事をした二人は、そのまま奥のリフレッシュルームへと消えていった。

 経理部だけでなく、ルミリュクスの女性社員の大半から『癒し系おじさん』と親しまれているだけあって、こういう誘導は本当に上手である。

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