S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる
4ミリグラムの劇薬
黙々と階段を上る間、紗夜の頭の中には色んな疑問がぐるぐると激しく渦を巻いていた。
婚約者を名乗る女性は、自分の希望で業務時間中のルミリュクスへやってきたのだろうか。それとも和季の方が会社に女性を呼び出したのだろうか。
はたまた『会いたい』という気持ちが互いに一致していると気づいて、それならば今すぐ会社で会おう、と示し合わせたのだろうか。
それとも、まったく違う目的があるのだろうか。
もしもその女性が本当に和季の婚約者なのだとしたら、紗夜は和季に嘘をつかれていたのだろうか。
やはり紗夜は本命と結婚するまでの間の遊び相手で、和季が将来を考えている相手は他にいたのだろうか。
わからない。信じたいはずなのに、和季を信じると頷いたはずなのに、どうしていいのかわからない。
ならばこの目で確かめなければ――そう思っていた紗夜だが、七階フロアのドアの前まで上がってきたところで、はた、と我に返る。
「わ、私のばか……!」
そうだった。衝動に突き動かされて夢中で階段を上がってきてしまったが、よく考えたら紗夜のIDカードではこの扉を開けられない。
一般社員が重役フロアに立ち入るためには、エレベーターであれ階段であれ、認証を受けたゲストIDが必要となるのだ。
そんな当たり前の事実を目の当たりにした瞬間、紗夜の心がまたずん、と重く沈み込む。