S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる

(呼ばれてもいない私は、和季さんに会いに行くこともできない……)

 和季の婚約者を名乗る女性は、ゲストIDどころか社員IDすら持っていなくても、この七階フロアに立ち入ることができる。

 受付で自分の名前と和季の名前を出すだけでフロアに入れる許可を、明里グループの御曹司である和季から与えられたからだ。

 だが紗夜は違う。ただの社員でしかない紗夜は、重役の方から呼び出されでもしない限り、この扉を開くこともできないのだ。

「……なにしてるんだろ、私」

 それに冷静に考えてみたら、仮にこの扉を開けて和季に会えたとして、紗夜は彼になんと言うつもりなのだろうか。

 事前連絡もせず和季の元へ押しかけて『婚約者なんていない、って言ったじゃないですか』と問い詰めるつもりなのだろうか。

 それとも女性に対して『あなたは明里常務とどういう関係なんですか?』と問いかけるつもりなのだろうか。

 ――そんなの、とんだ迷惑女でしかない。

 仮に二人の間に婚約関係がなかったとしても、少なくともどちらかが『会いたい』と言い出して、もう片方がそれに応じたことは紛れもない事実なのだ。

 つまり二人がただの他人よりも親密な関係であることは、疑いようがない。

 なのに恋人でもなんでもない紗夜が突然乗り込んで、修羅場を作ることなんてできない。

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