S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる
それはもちろん、結果的に修羅場にならなかったとしても同じこと。
紗夜は絶対に、その女性と顔を合わせるべきではない。後々和季に事情を聞いて、紗夜自身が納得するまで質問をすることは可能だとしても、少なくとも今ここで二人に会うことは避けるべきだ。
どちらにせよ、紗夜にはこの扉を開けることすらできないのだから。
「……戻ろ」
頭の中に駆け巡っていた衝動が急速に沈静して、ふっと冷静になる。もちろん不安も疑問も一切消えていないし、この状態で仕事をしても悶々とするだけなのはわかっている。
とはいえ、現状すぐにこの疑問を解決することはできないし、そもそも今の紗夜は勤務時間中だ。
一応まだお昼休み中ではあるが、その休憩終了時刻もすぐそこまで迫っている。最後に時間を確認したのは、ラウンジを出て陽太にメッセージを入れようとスマートフォンを開いたときだが、その時点で時計は十二時四十分だったので、お昼休憩はあと五分もないはずだ。
(そうだ、瀬戸くんに返事……)
七階の踊り場でくるりと後ろを向いた紗夜は、そこでようやく、未だ陽太にメッセージを送れていないことを思い出した。
だが今から連絡をするのは、時間的にも精神的にも難しい。ただでさえ文面に迷っていたが、今は先ほど以上に難しいことを考える余裕がない。