S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる

 階段を上がってくるときは自分に体力がないことも忘れるほど無我夢中だったが、それより数倍楽なはずの階段を降りる動作が、今はやたらと疲れる。

 手すりに掴まり重たい足を動かして、ようやく六階と七階の踊り場まで降りてきた紗夜は、はぁ、と深いため息を零した。

 だがそこで、思いもよらない音が耳に届く。

 カチャンと金属が落ちる音がしたのち、ギィ、と扉が開く音が響く。

 それが七階フロアへ出入りする扉の開閉音、そしてその扉から誰かが階段エリアに入ってきたのだと気づいた紗夜は、咄嗟に六階へ続く階段を二~三歩降りて前へ進むことで、相手から身を隠すという選択をした。

 階段はアカリグループの二社に勤める社員であれば、誰でも使うことができる。だが重役フロアに入れないはずの一般社員が、六階以上の踊り場にいるのは怪しい行動以外のなにものでもない。

 だから誰かに発見されたときに言い訳がしやすいよう、とりあえず六階まで降りようとした。
 ――しかし。

「ほんとごめんね。明里くんも忙しいのに」
「別にいいよ、ちょうど昼休憩だったし」

 階段エリア内へ入ってきた人たちの会話が頭上で響いたことで、紗夜の身体がびくっと強張る。

(和季さんと……女の人……!?)

 聞こえてきたのは片方が男性――和季の声で、もう片方は女性の声だった。

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