S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる
二人の存在を認識した瞬間、一目散に階段を駆け下りてここから逃げ出したい気分になった。
だが足がタイルに貼りついてしまったみたいにそこから動けない。
もしこのまま二人が階段を下りてきたら、こちらの存在に気づかれてしまうとわかっているのに、足が鉄の棒のように冷たく動かなくなってしまう。
「その靴で階段上がれるのか?」
「大丈夫……だと思う。たぶん」
「ほんとかよ」
気心が知れているような二人の会話から、どうやら和季と女性は六階の方へ下りてくるのではなく、八階の方へ上がっていくらしいと予想ができた。
だが紗夜は、その会話にもまた衝撃を受けてしまう。
なぜならアカリ本社ビルは八階建てで、その最上階にはルミリュクスの社長室と副社長室、アカリリホームズの社長室と副社長室の四部屋しかない。
そこに二人で向かうということは、彼らの用件はほぼ確実にルミリュクスの社長、すなわち和季の父か、ルミリュクスの副社長、すなわち和季の兄に会おうとしている、ということだ。
(もしかして、家族に挨拶をするために……?)
脳裏に過ったその予想は、きっと当たっているのだろうと思う。
いよいよ聞くまでもない事実を突きつけられたような気がして、心臓の上に重石を載せられたような気分になる。