S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる

5キログラムの足枷


 衝撃的な場面を目撃してしまった影響か、紗夜の頭の中には、午後からこなした仕事の内容がほとんど記憶として残っていなかった。

 いや、午後の仕事どころか、あのあとどうやって自分の所属部署である経理課に戻ったのかすら、はっきりと覚えていない。

 六階で階段エリアを出てそこからエレベーターを使って三階へ下りたのか、そのまま階段を三階まで駆け下りたのかすら定かでない、という有様である。

 さらに仕事中も、いつになくぼんやりしてばかりだった。会社のお金を扱うという責任感が伴う業務に携わっているのだから、常に気を引き締めなければ、と思っているはずなのに、午後の仕事の遅さとミスの多さといったら、上司から怒りの説教をされてもおかしくないほどの体たらくだった。

 だが課長の増井はなにかを察しているのか、度重なる紗夜のミスを目の当たりにしても、『深田さんでもミスすることあるんだねえ』『明日からはちゃんとしてね』と笑顔で紗夜を宥めてくれるばかり。

 おまけに後輩の峰木にまで『大丈夫っす、先々週の俺のミスの方がヤバかったんで』とまったく慰めになっていない慰めをされてしまった。

 紗夜の失態をフォローしてくれた上司や同僚に深々と謝罪を重ね、いつもの定時より少しだけ遅い時間に、心がくたびれた状態でようやく帰宅した。

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