S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる

 紗夜を褒めるときの和季の笑顔や指遣いを思い浮かべるたびに、気持ちの浮上と沈没を繰り返してしまい、ここでもやはりどうやって帰宅したのか覚えていない。

 だがご飯を食べて入浴を終える頃には少し気持ちが落ち着き、『早く切り替えて、明日はちゃんと頑張らなきゃ!』と思い直せるぐらいの自制心を取り戻した。

 ――しかしそこで、決意の出鼻を挫かれるような状況に見舞われる。

 ピンポーン……と玄関チャイムが鳴る。

 その瞬間、身体がびく、と硬直する。

 時刻は午後九時すぎ。こんな時間に宅配なんてくるはずがないし、同じマンションの住人が回覧板を回すために訪ねてくる時間でもない。

 ならば思い当たる人物は一人だけ。やってきたのはきっと、隣の部屋に住んでいる和季だ。

(……和季さん)

 一瞬、出るべきかどうか迷ってしまう。

 もちろん本当は和季と会って、ちゃんと彼の目を見て、昼間見かけた女性との関係性を彼の口から直接聞くべきなのだろう。

 そして紗夜に語った『俺には婚約者なんていない』という台詞は嘘だったのか、と彼の真意を問うべきだ。

 それはもちろん、わかっている。

 けれど今の紗夜には、和季に婚約者の有無を問うことに意味があるように思えない。

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