S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる

 和季の口から『そうだ』と肯定されたらショックを受けるのはもちろんだが、これまでのやりとりを考えたら、実際は『そんなわけないだろ』とあっさり否定される可能性が高いように思う。

 けれど紗夜は、その否定の言葉が事実じゃないことを知っているのだ。

 肯定されても苦しい。
 否定されても苦しい。

 だったらなにも聞かない方がいいのではないか。和季とは少しずつ距離を置いて、紗夜は彼のプライベートにこれ以上踏み込まないよう徹底すべきなのではないか、と思ってしまう。

 いや、そもそも今の紗夜と和季は『元先輩・後輩』という以外、なんの名前もない関係だ。

 会社に呼び出して家族に紹介するということは、おそらく和季とあの女性の結婚は、もう間近に迫っているのだろう。

 それに対して紗夜と和季の関係は、始まってすらいない。距離を置く、身を引く、以前の問題である。

 じわりと滲みそうになる涙を堪え、ドアフォンに指をかける。

 居留守を使ったせいで何度もチャイムを鳴らされても困る。ならばすぐに応じて、手短に用件を済ませてしまうべきだと判断し、ドアフォンの受話器をそっと持ち上げた。

『おつかれ、紗夜』

 ガチャ、という音がドアフォン越しに聞こえたのだろう。紗夜が出たと気づいて声をかけてきたのは、やはり和季だった。

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