S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる

「!」

 残業を終えた深田 紗夜(ふかだ さや)がデスクの一番上の引き出しを開けると同時に、そこにしまい込んであったスマートフォンがヴヴヴと震えた。

 あまりのタイミングの良さに、思わず身体がびくん、と飛び跳ねる。

 だが身体が完全に硬直して動かなくなってしまう前に、ハッと我に返って俊敏な動作でスマートフォンを回収する。万が一画面に表示された名前を誰かに見られたら、これ以上ないほど面倒な状況に陥るとわかりきっているからだ。

 とりあえず、場所を変えなければ。

 そう考えて立ち上がった直後、聞き慣れた男性の声が紗夜を呼び止めてきた。

「深田先輩。これからみんなで飲みに行くんですけど、先輩もどうです?」
「え……?」

 声がした方へ視線を向けてみると、二つ年下の後輩である峰木 裕也(みねき ゆうや)が、にこにこと楽しそうな笑顔を向けてくる。

 その後ろには、同じ経理課に所属する同僚数名の姿も見える。どうやら月末締めの業務を無事に乗り切ったことを祝し、これからみんなで夜の繁華街へ繰り出すつもりらしい。

 いつもなら紗夜も参加するところ。だが、今はそれどころではない。

 同僚たちの目からスマートフォンを隠すよう右手を背中の後ろに回し、視線もそろりと横へ泳がせる。

「えっと……。つ、疲れたから、今日はやめておこうかな……?」
「そうですか? じゃあまたの機会に」
「うん、ごめんね。お疲れさま」
「お疲れさまっす」
「深田さん、お疲れさま~」
「気をつけて帰ってね」
「ありがとうございます」

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