S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる

 紗夜の告げた理由に違和感を抱かなかったのか、峰木を含む同僚たちが労いの言葉を残してぞろぞろとオフィスを出ていく。

 彼らの姿が完全に見えなくなると、とりあえずの危機を脱したことにホッと安堵する。

 だがオフィス内には、まだ経理課長の増井(ますい)が残っている。

 オフィスの施錠準備をしていた増井から「帰らないのかい?」と笑顔を向けられた紗夜は、再びハッと我に返った。

 帳簿上に寸分の誤差も許されない『経理課』のまとめ役ゆえか、増井はやけに勘が鋭く、洞察力にも優れている。

 基本的にはのほほんとしていて穏やかな性格の持ち主だが、彼には些細なきっかけから紗夜の事情を見抜かれてしまう可能性がある。ならば増井の前でも、安易にスマートフォンを開くべきではない。

「お疲れさまでした」
「はい、お疲れさま」

 そう判断した紗夜は通勤バッグを掴むと、その場でぺこりと頭を下げてそそくさとオフィスを後にした。

 足早に廊下を進み、エレベーターがあるフロアホールまでやってくる。しかし気が逸っているためか、エレベーターが一階から三階まで上がってくるまでのわずかな時間すらもどかしく感じる。

 焦れた紗夜はそのままホールの奥まで進み、オープンラウンジの裏側にある階段を使って下まで向かうことにした。

< 3 / 304 >

この作品をシェア

pagetop