S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる

(――ううん……)

 しかしその考えはすぐに自分で打ち消す。

 冷静に考えてみても、やはり陽太と付き合う気にはなれない。同期の友人として付き合うなら悪い人ではないが、異性として特別な感情は抱いていない。和季を忘れるために陽太と付き合うというのも、卑怯な話だ。

 ならばやはり今すぐ断ろう、と考えてランチバッグの持ち手を握りしめると、リフレッシュルームから出てきた陽太に声を掛けるべく、一歩踏み出す。

「瀬戸く……」
「紗夜!」

 しかし紗夜が声を発すると同時に、後ろから誰かに名前を呼ばれる。

 直後に二の腕をぐいっと引っ張られたので後ろへ振り返ってみると、そこに立っていたのは思いもよらない人物――明里和季だった。

「!? えっ……あ、明里常務……!?」
「ようやく、捕まえた……!」

 息が上がっている様子を見るに、どうやら和季はエレベーターを降りて一直線にこちらへ向かって走ってきたらしい。

 距離はそれほど離れていないが、表情のも呼吸にも焦りの感情が滲んでいて、紗夜の腕を掴む手にも強い力が込められていた。

「ちょっとこっち来い」
「えっ……!?」

 目を見開いて固まっていると急に腕を引っ張られ、バランスを崩すようによたよたと前へつんのめる。

 一応、紗夜が転ばないようスピードをゆるめて誘導する方向にも配慮はしてくれているが、かといってその腕を離すつもりはないらしく、引きずられるように三階フロアの奥へと進んでいく。

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