S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる
それでもどうにか和季を止めようと、彼のジャケットを必死に手繰り寄せてぎゅうぅと掴まると、気づいた和季が唇を離して、紗夜を解放してくれた。
全身の力が一気に抜けて、背中で壁を擦るようにずるずると床にへたり込む。和季が腕を掴んでくれたので勢いよく崩れ落ちたわけではないが、結局は床に尻もちをついてしまう。
「な、にを……考えてるんですか……っ」
目線の高さを合わせるよう壁に手をついてしゃがみ込んだ和季をきつく睨み、抗議の声を上げる。
「ここ、会社ですよ!?」
「……わかってる」
紗夜が少し大きめの声を出すと、和季が苦虫を噛み潰したような表情で眉間に皺を寄せる。
だがやはり離れてくれるわけではなく、むしろ少しでも紗夜と接触したがっているかのように、身を屈めた和季が紗夜の肩の上にぽすんと額をのせてくる。
「わかってんだよ、俺も……」
ぼそりと呟いた和季が、自制が効かない行動を悔いているように、はあぁ……と深い息を吐く。
その姿は、いつもきらきらと輝いてて、人から注目を浴びたぶん、周囲の人々に力を与えられるような『明里御曹司』ではなく、ままならない状況と感情を持て余して苦悩する一人の男性『明里和季』の弱い姿のように思えた。
いつになくしおらしい和季の様子を目の当たりにした紗夜は、少し強く反発しすぎてしまったかも、と一人おろおろ狼狽えた。