S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる
太陽そのものはすでに高層ビルの向こう側へ落ちてしまっているが、社内の温度が適温よりも少し低めに設定されているためか、その温度差のせいで身体中から汗が噴き出てきそうだ。
強烈な熱気にさらなる憂鬱な気持ちを覚えながら、歩道の端に寄って、とぼとぼと駅までの道を歩いていく。
(私を、秘密の愛人にしたいのかな……)
これまでにも何度か考えた可能性が、また紗夜の思考を掠める。
以前、和季から聞いた話によると、ルミリュクスの創業者――すなわち和季の祖父は、若い女性社員との火遊びが原因で、明里一族だけでなく会社全体を巻き込むような大きなスキャンダルを引き起こしている。
それ自体はもう何十年も前の話だが、結果的に相手の女性は会社を辞め、アカリグループには『社内恋愛禁止』という鉄の掟が作られた。
身内が引き起こした『おいた』が原因で様々な人たちに迷惑をかけた前例があるのに、なぜそのルールを撤廃した張本人の和季が、過去の過ちを繰り返すような行動を取るのだろうか。
婚約者がいながら紗夜にもちょっかいをかけていることが露見すれば、その婚約者が怒るのはもちろんのこと、和季の祖母だって大激怒するはずなのに。