S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる

(……和季さんは、そんな人じゃない)

 和季のすべてを知っているわけではない。もちろん紗夜が知らない裏の顔を持っていたり、先ほどの陽太のように、実は和季も色んな女性に声をかけてあちこちで遊んでいる、という可能性も考えられるだろう。

 だが紗夜は、和季があえて紗夜を傷つける方法を選ぶとはどうしても思えない。

 紗夜に笑顔を向けてくれて、頭を撫でながら『えらいな』と褒めてくれて、紗夜を力強く抱きしめてくれる和季が、紗夜を悪者にして突き放すような選択をするはずがない。

(やっぱり私、完全に捨てられるまでは和季さんの傍にいたい、って思っちゃうんだろうな……)

 横断歩道の信号が青になったので、立ち止まっていた場所からそっと歩き出しつつ、また和季の笑顔を思い出す。

 プライベートの和季の姿を目にするのは今夜が最後になるかもしれない、と思い耽りながら――

「え、ちょっと……待って!」
「……え?」

 ぼんやりと歩き始めた紗夜だったが、そこで突然、斜め後ろからある女性が紗夜に声をかけてくる。

 まったく聞き覚えのない声に呼び止められた紗夜は、その場で足を止めて後ろへ振り返ろうと思った。

 だがそれと同時にまた別の方向から――車道の少し離れた場所から甲高いクラクション音が聞こえてきたため、無意識にそちらへ視線を向ける。

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