S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる

8キロの愛に守られて


 顔を上げた紗夜は、視界の端に捉えた赤い塊が――真っ赤な車体のスポーツカーが、勢いよくこちらへ突っ込んできていることに気がつく。

(え……止まるよね? だって横断歩道の信号は、青になってるもの……)

 頭のどこかでは『あれはどう考えても止まりきれる速度じゃない』と理解しているはずなのに、なぜか異様に呑気な調子でそんなことを考えている。

 そうこうしているうちに、先行するパパ―ッパパーッ! という警告音と、キキィーッ……! と野生動物が鳴いているかのような甲高い摩擦音が重なり合って、紗夜のすぐ傍まで迫ってくる。

 周囲にけたたましい不快音が響き渡ると、紗夜の身体がびく、と硬直する。

 だが靴底がアスファルトに貼り付いて一体化してしまったみたいに、足がまったく前に出ない。しかしその場から一、二歩後退して横断歩道側へ戻って危険を回避をする、という行動にも至らない。

(ぶつかる……!)

 足はまったく動かないが、頭と目は正常に動いたので、咄嗟にぎゅっと縮こまって顔を背けようとした。

 ――そのとき。

「紗夜……ッ!」
「!?」

 今度は聞き慣れた男性の声が聞こえ、それと同時に腕をわし掴みにされ、そのまま勢いよく身体を引っ張られる。

 強い牽引力にふわりと身体が浮いたせいで、後ろへ思いきりバランスを崩してしまう。

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