S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる
転ぶ――と思うと同時に本当にアスファルトの上に崩れ落ちてた紗夜だが、不思議なことに思ったほどの衝撃は覚えない。
代わりに予想外の柔らかさな感触と布の質感、そして外気温とは異なるほんわりとした熱の気配が紗夜を包み込んだ。
「紗夜!」
「え……。か、ずき……さん……?」
「怪我は!? どこか痛めたか!?」
「和季さん……? なんで……?」
名前を呼ばれたので顔を上げてみると、なぜか血相を変えた和季が紗夜の顔を覗き込んでいる。
和季と見つめ合う背後で、急ブレーキをかけていた赤い車が、キキーィッと不快音を鳴らしながら急停止する。
振り返ってみると車が止まったその場所は、あのまま立っていたら間違いなく接触、最悪の場合、勢いよく吹き飛ばされていてもなにもおかしくない場所であった。
一度は完全停止した赤い車だが、路肩に寄せて中から人が下りてくるでもなく、窓を開けてこちらの様子を窺うでもなく、すぐに再発進してそのまま片側二車線の道路を猛スピードで駆け抜けていく。
その一連の様子を呆然と見つめていると、紗夜を助けて守りながら一緒に歩道へ倒れ込んだ和季が、怒り心頭、と言った様子で低く吠え始めた。
「あの車、完全に信号無視だろ……ッ!」
紗夜を抱きしめたまま怒りを露わにする和季を見つめているうちに、自分がいかに危険な状況下にあったのかを思い知る。