S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる

 すでに『交通事故未遂、からの和季にお姫さま抱っこ』を多数の社員に目撃されている。

 その群がる人々につられてさらに人が集まってくる可能性まで示唆されると紗夜も唸り声を上げるしかなく、正論に負けるようにしぶしぶ奥へお尻の位置をずらした。

 落としまっていた紗夜の通勤バッグを女性社員の手から受け取り、二、三言なにかを言い残すと、すぐに和季も隣に乗り込んできて、運転手に行先を告げる。

 彼が伝えたのは紗夜も住んでいるセカンドハウスの住所ではなく、元の住まいであるあの高層マンションの住所だった。

 走り出したタクシーの中で落ち着かない気分を味わっていると、腕を伸ばした和季が紗夜の肩をぐいっと抱き寄せる。

 二人の距離が急激に縮まると、クーラーが効いていて車内は涼しいはずのに、顔の左側だけが急に熱く火照る気がした。

「怖かっただろ」

 耳元で優しく問いかけられたので、ゆっくりと顔を上げる。すると目が合った和季が屈託のない笑顔を向けてくるので、紗夜はつい言葉に詰まってしまった。

「紗夜に怪我がなくてよかったよ。でもまあ、もう少し周りの様子には気をつけた方がいいけどな」
「……申し訳、ありません」

 おそらく紗夜に声をかけてくれた女性だけではなく、横断歩道の周囲にいた人たち全員が、車道を猛スピードで走ってくる車の存在に気がついていた。紗夜の意識にはまったく入ってこなかったが、きっとエンジンも爆音でふかしていたのだろう。

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