S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる
「俺、彼女とは結婚を考えているので」
(……。……え?)
予想外の宣言に驚くあまり、その場に固まった状態で動けなくなる。
和季が口にした『結婚』というワードがまったく頭に入ってこなくて、黙り込んだままその意味を考え始めてしまう。
(どういうこと……?)
「うん? どういうこと?」
意味がわからないのは本郷も同じだったらしい。当たり前だ。先ほど『彼女?』と聞かれて『違います』と答えた和季が、急に『結婚を考えている』と言い始めたら、それは『どういうこと?』と思うに決まっている。
和季の発言の意味を必死に考えた紗夜だが、ほどなくしてピンと閃いた。
これはきっと、この場を乗り切るための和季の嘘だ。
明里家の御曹司とはいえ、相手が上司である以上、あまり邪険にして適当にあしらうこともできない。
それにこの場で本郷の要求を上手く断れたとしても、もし街で彼女が一人でいるところを偶然本郷が見つけてしまい、そこで和季の名前を出して声をかけたりなんかしたら、確実に彼女に迷惑をかけてしまう。
だったら自分の恋人、しかも結婚を考えている相手、ということにしておけば、確実に本郷の興味を削ぐことができる。
なぜなら和季は、今は部下でもいずれ確実に重役となる人物だ。そんな和季の未来の伴侶にちょっかいを出すことがどれほど危険な行為かぐらい、課長職に就いている本郷ならばすぐに察せるはずだ。
そう考えると、これは機転の利いた素晴らしい嘘だ――と、思っていたのだが……