S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる
「出会ったのは結構前なんですけど、最近どんどん可愛くなってるんですよね」
「へ、へえ……?」
「だから他の男が寄りつかないか、心配してまして」
「そ、そうなんだ……?」
「俺、本気なんです。だから今度、親にも紹介するつもりなんですけど」
「! そ……そっか……」
だんだんと熱を帯びていく和季の力説と反比例するように、本郷の声が少しずつ小さくなっていく。
和季の親ということは、ルミリュクスの代表取締役社長、すなわちこの会社内で一番の権力を持つ人物である。
その社長の公認となった相手に手を出すことがどれほどの悪手か、本郷ならば充分すぎるほどよくわかっているだろう。
付き合っているわけではない。でも将来は結婚を考えている。実に上手な逃げ方だと思う。
だが紗夜は、一人なんとも言えない気持ちを味わっている。
なぜならこの一年ずっと和季の傍にいて、仕事中の表情や声や仕草、最近ではプライベートの様子も一番近くで観察している紗夜には、わかってしまったのだ。
今のはその場しのぎの嘘でも演技でもない。和季は本気だ。本郷に釘を刺すような台詞と声音は、どれも彼が本心を言っているときのものとまったく同じだったのだ。
「ですから、彼女を課長にご紹介することは難しいですね」
「あ、ああ、そうなんだ。えっと……変なこと聞いてごめんね?」
「いいえ」
和季がそう締めくくると、本郷が気圧されたように笑う声が響く。
和季は穏やかな態度で返事をしていたが、そのやりとりを勝手に聞いてしまった紗夜の頭の中は、突然大雪が降ったように真っ白になっていた。