S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる

 その場でくるりと踵を返すと、足音を立てないようそっと経理部を後にする。

(……そっか)

 和季から『高校のときの同級生なんだ』と聞いたときは、商業施設で偶然旧友に会っただけなのかと思っていた。

 しかし実際は違う。おそらく和季は紗夜と会う前に、あの女性ともデートをしていた。本郷が目にしたのはきっとその場面だ。

 和季も紗夜に対して後ろめたさがあった。だからあのときすぐに話題を切り替えて、紗夜の意識を彼女から逸らそうとしたのだろう。

(……そう、だよね。私が、ずっと和季さんの傍に、居られるはずない……)

 事実を突きつけられると心臓が一気に冷える心地を覚えるが、考えてみれば同然の話だ。

 紗夜は和季の一時的な遊び相手以上にはなれない。明里家の御曹司である彼の隣に立つ器がないことはもちろん、社内恋愛が禁止されている中での会社の後輩なんて、そもそも人に紹介できるような存在じゃない。

 なのに紗夜は、和季の傍で過ごす日々が楽しくて、彼が教えてくれるすべてが新鮮で、彼と触れ合えることが嬉しくて、『未来』のことなんてまったく見えていなかった。

 和季が『結婚』を見据えていること、その相手を心に決めていることなんて、考えてすらいなかった。

(ばかだな、私)

 気がつけば紗夜は廊下を走っていた。

 置き忘れたお弁当箱のことなんて、もう頭から完全に抜け落ちていた。

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