S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる
懇願するような和季の声に胸の奥が熱く焦げつくのに、それと相反するように頭の中が冷たく凍える。
嬉しいと思う感情と悲しいと思う理性が、紗夜の中で綯い交ぜになる。
(和季さんは結婚するのに、私が誰かを好きになるのは、だめなの……?)
急に息苦しくなった紗夜は、和季の胸に手をついて腕からするりと抜け出て、距離を取るように彼に背中を向けた。
「約束は……できません」
「……紗夜」
「さようなら」
一言そう告げると、玄関で靴を履いて和季の部屋を出る。
拒絶の言葉を告げたこともあり和季も追ってこなかったので、下階行きのエレベーターに乗り込んだ紗夜は、はぁ、と大きな息を零した。
週明けから和季が異動するまでのあと二週間も、職場では普通に顔を合わせる。
これはかなり気まずい状況かも……などと他人事のように思わなければ、この苦しい感情の紛らわせ方がわからない紗夜だった。
だがその週明け、紗夜は意外な事実を知らされることとなる。
紗夜はまさか、二週間後に自分も経理部財務課から経理部経理課へ異動になるとは、まったく考えていなかった。
和季から教わった知識とこの一年で培ってきた経験を元に、和季がいない環境でも頑張らねば、と必死に頭を切り替えようとしていたのに、その決意がすべて空回るとは思ってもいなかったのだ。
そう――このときは、まだ。