S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる
トイレ以外は常にべったりなところを見るに、きっと今はなにを言っても無駄なのだろう。優しく人当たりがいい和季だが、変なところで頑固な性格なのは、以前から知っていたことだ。
どう足掻いても手放してくれないのなら、と諦めの境地に至った紗夜は、和季に横抱きにされた姿勢はそのままに、先ほどから疑問に思っていたことを素直に彼にぶつけてみることにした。
「タイミングがよすぎて、びっくりしました」
「ん?」
「私が帰るところ、見てたんですか?」
和季の言動には色々と気になるところがあるが、今もっとも疑問に感じているのは、先ほど紗夜を助けてくれたときのことだ。
この春からアカリグループの重役の一人となった和季は、基本的に専任の運転手による通勤送迎を推奨されている。
しかし和季本人は『まだそこまで偉くないから、必要ない』と、勤務時間外は常に自分の足で歩いて移動しているらしい。
それ自体は和季本人からも風の噂でも聞いて知っていたが、実際の紗夜は、和季と退勤時間が重複したことはほとんどなかった。
にもかかわらず、今日はまるで紗夜が帰る時間を知っていたかのように、颯爽とあの場に現れた。紗夜としてはありがたい限りだが、偶然にしては出来過ぎていると思うのだ。